M&A活況!ソフトバンクグループの「ARM」買収の理由

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なぜ、日本においてM&Aが活況付いているのか?

買収取引額は年々増加傾向に

バブル崩壊後、日本企業は軒並み低迷に陥り、そこに海外の機関投資家が次々と日本市場に目を付けました。

俗に言う「ハゲタカファンド」というものです。この「ハゲタカファンド」が日本企業に対し不良債権処理や企業買収を行ったことで、日本のM&Aを大きく加速させました。

 

この流れは2006年にピークを迎え、その後、徐々に少なくなっていきましたが、近年は日本企業による案件が増加傾向にあります。

そのため、買収取引額も以下のように増加し続けています。

買収取引額

2014年:約6兆円

2015年:約10兆円

2016年:約11兆3000億円

2016年の主な買収対象地域は、欧州が約6兆2000億円、北米が約4兆円、国内が7兆8000億円と日本企業による近年活況。さらに、この流れは2017年も継続して続くと見られています。

 

現役世代の減少による後継者不足が要因

ソフトバンク ARM 買収 boss

要因としてはまず、高齢化による現役世代の減少による後継者不足が挙げられます。

高度成長期に企業した経営者で、現在日本国内で引退の節目に架かっている経営者は非常に多く、約3分の2にあたる66%の企業が後継者不在という統計もあります。

 

にもかかわらず、そういった企業の数に対して後継者候補と成り得る現役世代が圧倒的に少ないのです。

そこで廃業を回避するために事業継承を活用する傾向が高まっているのです。

 

また日本は高齢化に加えてデフレが長期化していることもあり、国内市場は縮小傾向です。

多くの企業が成長性を保つことが難しくなるため、国内企業への買収合併による国内市場でのターゲット拡大、もしくは国内市場に見切りをつけ海外企業の買収により海外展開をする、といった対策を講じているため、M&A規模が拡大しているのです。

 

ソフトバンクグループの「ARM」買収

孫氏の長期的な投資ビジョンとは?

2016年にある日本企業が衝撃的な買収劇を繰り広げました。

ソフトバンクグループによる英国の半導体回路設計大手アームホールディング「ARM」の買収です。

 

当案件は日本企業による買収額では史上最高の約3.3兆円にもなりました。

また金額もさることながら、2週間という交渉開始から合意に至るまで速度も圧巻の内容でした。

交渉はソフトバンク会長の孫氏がスチュアート・チェンバース会長とトップ交渉を直接行っています。

 

さらにこの時の買収手法は全て自己資金で賄っているという点にも注目です。

1兆円分はみずほ銀行からつなぎ融資を受けたもの、残りの資金については、アリババ、スーパーセル、ガンホー・オイライン・エンターテイメントの保有株式の売却により賄っています。

 

なぜ、そこまでしてARMを買収するに至ったのか?

現在まで多数の企業を買収してきたソフトバンクですが、今回の買収意義はこれまでのそれとは大きく異なります

それは、孫氏の長期的な投資ビジョンと、企業が有する可能性によるものであるという点です。

 

過去の買収とARM買収の違い

ソフトバンク ARM 買収 technology

もちろん、他の企業の買収も長期的なビジョンやその企業が有している可能性による要素があるから実行されたのでしょうが、ソフトバンクのARM買収に関しては、その要素が断然に濃いと言えます。

 

まず現在までの被買収企業との違いは、その時点での業績の状態です。

 

例えばボーダフォンやスプリントは、ソフトバンクに買収される前までは業績を大幅に落とし経営不振に陥っていました。

ソフトバンクグループは、もともと日米の携帯電話事業への新規参入に意欲的であったこともあり、携帯電話市場で大きなシェアを獲得しているにもかかわらず経営不振という企業は、まさに買収に打ってつけだったのだと思います。

つまり、事業参入の機会を得るだけでなく、経営再編による売上の拡大余地が見込めるわけです。その時点では、理想の投資対象であったと言えるしょう。

 

しかし、ARMは経営不振に陥っていたわけではありません

ARMはCPUなどの設計を手掛ける企業で、同社の設計を採用するCPUメーカーは多く、高いシェアを有しています。

 

ARMが設計したチップセットは、多種多様な機器に搭載されていますが、中でもスマートフォンのチップセットは9割以上がARMの設計のチップセットを使用しています。つまり、ARMは既にスマートフォン開発には必要不可欠な存在となっているのです。

したがって経営はいたっては順調であり、売上げの上昇余地はそれほど見込めないと考えるのが普通でしょう。

では何故ソフトバンクは、ARMを3.3兆円という巨額な投資金を投入してまで、買収に踏み出したのでしょうか?

そこには「IoT」というキーワードが関わってきます。

 

ARM買収はIoT社会の将来性を見据えた投資

ソフトバンク ARM 買収 cloud service

IoTとは、世の中のあらゆるものがインターネットに接続するという概念で、ソフトバンクが現在最も力を入れている分野でもあります。

IoT化された社会が現実に近づくほど、それに付随するデバイスは必然的に増え、世の中のありとあらゆる物にCPUやメモリといった通信機能が搭載される必要が出てくるということになるのです。

そうなれば、ARMが手掛けるCPUの市場は間違いなく飛躍的に拡大することが予想されます。

ソフトバンクは現在まで、見方によっては「節操が無い」と言えるほど企業買収を積極的に行い広範囲の事業に着手してきました。

今回買収されたのARMのCPUチップは全世界で年間148億個も出荷され、特にモバイル市場においては、プロセッサーで今や85%以上のシェアを誇っています。

ARMの買収は、そういった将来性を見据えたソフトバンク孫氏の長期投資なのでしょう。

 

ARM買収による目論見

ソフトバンク ARM 買収 blogger

ソフトバンクによるの買収は、モバイル市場の核となる部分を押えてしまうことになるため「独占的である」という意見も一部で見られました。

 

そもそも、ソフトバンク自体はスマートフォンを製造していません。そのためアップルやサムスンといったメーカーと競合することはないハズですが、それでもモバイル市場で確固たる地位を築いたことは否めないでしょう。

 

実際にARMの顧客には、モバイルキャリアでソフトバンクの競合であるNTTドコモなども存在します。

したがって、今回の買収により「ARMとの間に存在する機密情報がソフトバンクに漏れるのではないか」という懸念がNTTドコモ側にもやはりあったとのこと。

しかしこれに関しては、NTTドコモをはじめとするARMの顧客が機密保持契約を結ぶ相手はソフトバンクでなく、今まで通りARMであるということで回避されています。

 

またソフトバンクは、ARMの経営陣や英国ケンブリッジ本社の体制を維持する方針であり、英国でのARMの雇用も5年間で倍増させるといった、あくまで中立性と独立性を維持するスタンスを採っています

こういった主体性を残す譲歩も、経営不振でもないARMのような企業を2週間で買収合意に至らせた要因ではないかと考えられます。

 

ARM側のメリットとは?

ARMの幹部によれば、まず4万人以上いた株主が1社だけになったことをメリットとして挙げています。

株主の数が多いということは、事業進行の妨げになり易い傾向があります。これは意見の数が多くなるため、事業方針がまとまり難いといったことでしょう。

 

また株主は、基本的に目先の利益を重視する傾向が強いため長期的ビジョンを見据えた投資計画などは懸念を持たれやすいのも経営側としては難点と言えるでしょう。

今回の買収後は株主は1人1社となったため、この問題は劇的に解決することになったハズです。

 

今回のARMの買収でもわかるように、孫氏は見合う案件であればむしろ長期投資を好む傾向があることが窺えます。ARMも長期的な視点で、積極的に投資案件に取り組める状況になったと考察できます。

 

当然ソフトバンクによるARMの技術の積極的なPR活動も、ARMにとっては強力な支えとなるでしょう。

もともとARMのプロセッサーは、バリエーションの多さと消費電力の少なさが評価されており、本来であればどのような分野でも需要が生まれるものと言えます。

 

孫氏がARMに価値を見た一番のポイントとは?

ソフトバンク ARM 買収 robot

ARM自体は、設計という業種柄もあって業務規模の割に世界的知名度は高くない企業でした。

それが今回の買収でソフトバンク傘下に入ったことにより、その知名度は向上。ARMの設計したプロセッサーはモバイル以外の分野でもシェアが拡がってきています。

 

先述したように今回の買収劇は、ソフトバンクグループにとっても、単に企業の業務参入や対象企業成長余地見込み、といった買収者のありふれた動機だけでプロダクトされたものではありません。

 

孫氏が「CPUの設計に自ら関わることが悲願だった」と述べているとおり、今回のARMの買収は「ソフトバンクがCPUの設計にも携わる」ということが予想されます。

実はここが孫氏にとって、ARMに価値を見た一番のポイントであるようです。

 

ARMは孫氏の夢の要と成り得る企業

ソフトバンク ARM 買収 ai-monitoring

ここ数年、孫氏は「シンギュラリティ」という超知性をテーマにした話題を挙げています。

超知性とは人間の知性を超えるコンピューターや人工知能を指し、シンギュラリティとはその超知性が人間の知性を超える時を指します。

 

孫氏は近い将来、このシンギュラリティにより、世界の産業や人々の生活は劇的に変化するとコメントしているのです。

 

つまりコンピューターの頭脳であるCPUの設計を知る事で、シンギュラリティの到来を考慮したトレンドを見定め、そこに沿った開発が出来ると考えているのではないでしょうか。

 

そういった意味では、ARMは孫氏の夢の要と成り得る企業であり、巨額の資金を投じてでも買収に至ったのは、むしろ必然だったのかもしれません。

 

ソフトバンクの莫大な有利子負債

買収額の3.3兆円は巨額な費用であり、孫氏も当然その勘定面は意識しているでしょう。しかし一方で、ソフトバンクの有利子負債は、実に14兆円以上に昇っています。

 

この大部分は主に投資によるものですが、その大半は巨額のM&A、開発への先行投資です。

M&Aを行った数は実に数千社に昇っており、他にもトランプ大統領を通じて米国に5.7兆円の投資を行ったことも記憶に新しいですね。常識では考えられない大盤振るです。

 

開発面では、一例としてヒト型ロボット「ペッパー」があります。

開発費などの負担が大きく先行し、傘下のソフトバンクロボティクスが、2017年7月末時点で債務超過状態でした。

これにより同社の赤字は続く見通しで、ソフトバンクグループが販売支援や資金を援助しているといった状況です。

 

ソフトバンク ARM 買収 architecture

ソフトバンクに度重なる巨額の融資をしているみずほ銀行は、「危ない橋を渡っている」ことで肝を冷やしている側面と、「もう引き返せない」と開き直り、孫氏を応援している側面が見られます。

 

実際、銀行側にとっても、このマイナス金利のご時世に、ここまで巨額な報酬を得られる案件は他にないのではないでしょうか。

今回のARM買収により見込める利益は、当然みずほ銀行にとっても巨額となります。

 

その反面、巨大になり過ぎた融資残高を不良債権としないため、銀行側もこの流れにとことん付き合うしかないという状況にも陥っていると言えるでしょう。

 

負債は新時代を迎えるための先行投資

ソフトバンク ARM 買収 smartphone

金の貸し借りは、ある程度以上の水準に達すると、「借り手の方が強くなる」などと言われますが、ソフトバンクは、まさにその「王道を走っている」と言えます。

 

ソフトバンクの負債額は既に売上額をも超えていますが、当の孫氏はさほど気に留めていないようにも見えます。

「開き直っている」というよりは、このような状況になっても可能性を見据えられる未来があるということなのではないでしょうか。

 

孫氏のメディアに向けた数々のコメントからも、コンピューターや人工知能といった無限の可能性を持つ分野への情熱は大きいことがわかります。

シンギュラリティがそう遠くなくなっている現在、その情熱は一層大きくなっていることでしょう。

 

「何もかもが一新されかねない新時代を迎えるための先行投資」と考えれば、ソフトバンクの負債額は、まだ序章なのかもしれません。

 

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