北朝鮮を巡って張り巡らされる関連国の思惑

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北朝鮮国旗

北朝鮮による過激な威嚇

8月9日、朝鮮国営の国営放送で同国が中長距離弾道ミサイルをグアム周辺に向けて発射する作戦を「慎重に検討」しているとの報道が成された。同時に朝鮮人民軍の報道官が、金正恩朝鮮労働党委員長が命令を下せば直ちに攻撃計画が「複数回にわたり連続的に実行される」とも述べている。

今回は、グアムという主要な米軍基地もある地点が、ターゲットには具体性も感じられる。また北朝鮮は、米国が「予防戦争」を計画していると批判しており、実行に移す動きがあれば「米本土を含む敵の要塞を一掃する全面戦争で対抗する」と過激な威嚇を行っている。

当然米国側も北朝鮮に対し、「無分別な軍事的挑発をやめるべきだ」と主張した。トランプ米大統領も、北朝鮮が米国をこれ以上脅かす様なら「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と発言をしており、両者の応酬は激しさを増している。

基本的に北朝鮮は、「米国との本格的な戦争を望んではいない」という見方が大半だったが、今回の報道は具体性を孕むものであったため、世間には動揺が走った。金融市場にも懸念が蔓延しdw、S&P株価指数先物はアジア時間に下げ幅を広げ、VIX指数は先月と同等の高水準に達した。

アジア株は総じて下落、為替市場でもドル/円が下落し、再び110円を割り込んでいる。グアムにある米軍のアンダーセン空軍基地の報道官によると、9日朝方の時点では、同基地における警戒水準は変更されていないというが、「北朝鮮に後退の意思はなく、今後も米国に詰め寄ってくる」という懸念を植え付けただろう。

経済制裁による北朝鮮への圧力

北朝鮮がICBMの発射実験を行った事で、国連安全保障理事会は、全会一致で石炭や海産物などの輸出を全面禁止する追加制裁案を可決している。北朝鮮は、追加制裁によって輸出額が3割減ることになる。

当然北朝鮮側は激高し、制裁可決に北朝鮮は「主権の激しい侵害だ」と強く反発し、米国に「代償を支払わせる」と表明していた。現在まで国連安保理や各国は、2006年以降、北朝鮮に対して制裁を重ねてきた。

禁輸対象は、大量破壊兵器や通常兵器とそれに関する各種部品・サービス、贅沢品、一部の鉱物資源や燃料類などである。日本もまた、2006年から始めた独自の経済制裁で、現在では全面禁輸を実施している。

先日、米国によるロシアへの経済制裁が成されたが、ロシアの様な大国でも経済制裁とはそれなりのダメージを被る。度重なる経済制裁にもかかわらず、北朝鮮の核兵器とミサイル開発は続いているどころか、ミサイル実験を繰り返し、日本への脅威を与え、米国にはさらに高圧的な姿勢を採っている。

経済制裁が通用しない北朝鮮

北朝鮮には何故、経済制裁が通用しないのだろうか。それは、他国の制裁に対する姿勢が起因している。そもそも経済制裁に加担するとなると、その国は輸出入管理のために多くの費用や労働力などを負担することになる。

国際秩序の恩恵も利点として挙げる事も出来るかもしれないが、比率としてデメリットが大きくなる公算が高い。つまり割に合わないという事だ。

それどころか、経済制裁の対象国と密かに貿易すれば、制裁に加担している国が抜けた分、大きな利益を上げられる可能性が出てくる。国との貿易において競争相手が減るという事は、大きなメリットとなる。

さらに、基本的に制裁に紳士に対応しようとする国は、経済規模が大きい国である事が多い。経済制裁にまともに参加すれば、余計な負担を発生させる事というデメリットに対し、横紙を破れば大きな利益を享受出来るというメリットが発生する。

そして現時点では、国連安保理制裁決議を破ったところで、何かの罰則があるわけではない。こんな事から、制裁破りは世界じゅうで数多く見られる。

中でも中国は、制裁破りでよく知られている国だが、今回の様に日本と米国が参入しない北朝鮮との貿易は、位置関係からしても中国企業は間違いなく有位に立てるだろう。また中国自体が、貿易の規制が行き届いておらず、また強化しようとする姿勢が見られないため、制裁破りは今後も増えていく可能性がある。

対して欧州は、世界の中では国際秩序を守る事に比較的熱心である。自身が連合としての規律を重んじている事もあり、実際に当事国とならなくても他国の経済制裁には紳士に参加している。

利害関係の少ない各国の対応

しかし近年、その欧州ですら北朝鮮と貿易しようとする国が増えている。北朝鮮が核兵器やミサイルを開発して直接脅威となるのは、恐らく米国と日本と韓国くらいだろう。

つまり、それらの当事国の以外は、北朝鮮に対する制裁に熱心になる理由があまり無いという事だ。これが北朝鮮に経済制裁が効かない理由の一因であろう。例えば、東南アジアや中東、アフリカ、中南米にとっては大した影響など無いし、利害関係も少ない。

したがって制裁に加担しなくても大した支障は無い。逆に、制裁対象国との貿易において当時国が抜けているのだから、制裁さまさまと言ったところだろう。実際、国連加盟国の大半は、北朝鮮に対する制裁状況の報告書を要求されても、提出していない。

提出量は、イランに対する制裁状況の報告書よりも少ない数である。特にアフリカ諸国は極端で、54ヶ国中、6ヶ国しか提出していないという事態である。アフリカ諸国は、国連安保理制裁が始まる前から北朝鮮と軍事協力があって、それを続けていたことにも起因している様だ。

近年でもアフリカ諸国では、北朝鮮の軍事トレーナーや技術者を招き入れており、伴って北朝鮮から武器の資材を輸入している。実際に東アジア以外では、北朝鮮がどのような国際関係を構築しているのかはほとんど知られていないという現実がある。

北朝鮮における国際社会とは、先述の東南アジアや中東、アフリカ、中南米現時点ではのことである。これらの国々は、北朝鮮に対する制裁に関心がないだけではなく、元々北朝鮮と強い友好関係がある国も存在する。

万が一こういった国々が北朝鮮と結託をして反勢力に回ったとしても、それ自体は世界的に見れば大した脅威とはならないかもしれない。ただし現在の米国の姿勢に疑念を抱いている国は、北朝鮮との友好国以外にも間違いなく存在するだろう。

中国からみた北朝鮮

北朝鮮を支持するかどうかは別として、米国に反感を持つ国々が呼応する事もあってもおかしくはない。先述では、北朝鮮を核・ミサイル開発問題に対する当事国と言えば、米国、日本、韓国としたが、別の見方をすれば中国も加えられるだろう。

中国は以前より、北朝鮮との同調から他国からの圧力から庇うといったスタンスを採っていた。北朝鮮の正式名称は、「朝鮮民主主義人民共和国」であるが、実情は全く違う。

完全な独裁国家であり、これは共産国家である中国と同調する根本となる。この思想は、日本や米国の様な民主国家とは考え方が真逆であり、共産国家はそれらの真の良好な関係は成立し難い。

したがって北朝鮮と中国は支えあう関係を続けてきた。北朝鮮にとって中国とは、資源等を提供してくれる後ろ盾の様な存在であり、中国にとっての北朝鮮は、その位置関係から、韓国や在韓米軍から自国を守るための前線の盾という重要な存在になっている。

何よりこの構図が露呈されたのが、1950年の朝鮮戦争だろう。韓国軍に味方して米国が参戦したのに対し、中国は北朝鮮に対し援軍を送っている。この中国の援護により、北朝鮮は敗戦ではなく休戦という形に着地する事が出来ている。

そして、1961年に締結された「中朝友好協力相互援助条約」は、「血の同盟」などとも呼ばれている。この共産国家同士の結びつきは、ソビエト連邦崩壊によりさらに強固となる。

そして拉致問題の浮上や、核実験の問題で北朝鮮は世界から孤立し、最貧国となるも中国の支援により生きながらえてきたという経緯がある。そんな中国と北朝鮮の関係も、2017年に悪化する事となる。

元々中国も、北朝鮮の核保有には懸念を示していた。中国にとって、首都北京からすぐ近くにある国が核を保有している事は、脅威であるためだ。

トランプ政権誕生。中国との関係

そんな最中の2017年、トランプ政権が誕生した。トランプ大統領が早速、「米中首脳会談」で習金平総書記に「中国を為替操作国に認定する」と圧力を掛け、北朝鮮への経済制裁への強化を要請する。

これに対する中国の反応に対する見解は多々あるが、北朝鮮に核開発を止めさせるという点において「米国と協調路線を採った」と見て良いだろう。そして中国は、北朝鮮からの石炭の輸入を停止し、「核実験を行えば北朝鮮の生命線とも言える石油のパイプラインを停止する」と圧力を掛けている。

北朝鮮にとって、軍事同盟を組んでいる中国から、軍隊が機能しなくなる様な措置をチラつかせられるという事は、裏切り以外の何者でもない。現在両国は、名指しで批判をし合っている様な関係であるが、中国も盾として重要な役割を担ってくれる北朝鮮を潰すのは本意ではないだろう。

中国はそういった意味も含めて、北朝鮮に核開発を止めさせたいのだと思われる。仮に、中国が北朝鮮とのすべての貿易を中止して、中朝国境を封鎖すれば、金正恩政権は3年ももたないとの見方がされている。

金正恩氏はエネルギー、食糧問題をそっちのけで、平壌のインフラやビル建設に注力している。したがって、北朝鮮の経済構造が一段と悪化しているのは間違いない。

この様な状況の中では、不満分子も大幅に増加していく可能性があり、今後、金正恩体制を転覆させようといった動きが拡大しても何ら不思議ではない。側近や親類をも厳粛するやり方から鑑みて、金正恩氏を真から助けようという人間などいるとは思えない。

また中国も、北朝鮮には強硬姿勢は望めないと考えている様だが、今後のトランプ大統領との関係次第では、中国が北朝鮮の核問題に一段と圧力を掛けていく可能性も考えられる。

そして、中国にとって北朝鮮とのパイプは米政権への強力な外交カードである。対して米国は、中国に強く望むポイントの一つとして、米中の通商におけるバランスを米国に優位に誘引したいという思惑がある。

昨今のトランプ大統領は、「北朝鮮と取引のある企業に圧力を掛ける」といった様に、様々な干渉を中国にチラつかせているが、これは米国の揚げ足取りにも見える。

いわゆる北朝鮮への中国の対応を頻繁に監視し、アラを探して通商関係等を優位に持っていこという事だ。ただ根本から、中国が北朝鮮への制裁を放棄してしまえば、この損害は米国にとっても大きい。

トランプ大統領は大国に対しては特に、人間関係を最初に構築して後から要求を連発するという手法を使う傾向が見られる。現在の米中間は絶妙なやり取りが必要な局面であるが、この手法が中国という大国に通用するのかは見物である。

一方でこのまま北朝鮮が崩壊しても、その後の北朝鮮の国家運営は、中国が主導する可能性が高いと見られる。そうなれば、中国は北朝鮮の豊富な資源を一手に握る事が出来る。

また、北朝鮮からの難民流入を抑制するためにも、中国は積極的に北朝鮮のインフラ整備などを進めていく公算が大きい。それは過剰設備の削減につながることにもなり、結局、現体制よりは北朝鮮の国家体制が改善される可能性が高いため、両国にとってのメリットは大きくなるだろう。

それを成し得た時、世界から見た中国の評価は間違いなく今より高いものとなっている筈だ。それは同時に、米中のパワーバランスが大きく変わっている事を意味する。

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